「年収が下がったら、転職は失敗になるのかな」
「今のつらさから離れたい。でも、次でも後悔したくない」
求人を眺めながら転職を迷っていると、最後は「転職した人の何割が成功したのか」という数字が欲しくなります。半分以上がよかったと言っているなら動けそうで、後悔した人が多いなら今の会社に残ったほうが安全に思えるからです。
ところが、公的データを確認すると、転職の結果を一つの「成功率」で表すことはできません。年収が上がったか、今の仕事に満足しているか、仕事内容がよくなったか、経験を活かせているかは、似ているようで別の問いだからです。
- 現職の職業生活に満足:53.4%
- 転職後に賃金が増加:39.4%
- 仕事内容・職種に満足:69.2%
- 前職までの知識・スキルを活用:72.2%
ただし、この四つは調査年・対象者・設問が異なります。足しても平均しても「転職成功率」にはなりません。この記事では、数字を一つずつ分けて読み、自分にとっての成功条件へ変えていきます。
満足・やや満足の合計
前職の賃金との比較
満足・やや満足の合計
非常に活用・活用の合計
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査」「令和7年上半期雇用動向調査」、JILPT「ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成」。各数値は同じ人を追跡した結果ではありません。
まず知っておきたい:「転職してよかった」を直接示す公的な割合はない
よく「厚労省によると、転職してよかった人は53.4%」と紹介されます。しかし、厚生労働省の設問は「転職してよかったですか」ではありません。調べているのは、転職者が現在の勤め先で、職業生活全体にどの程度満足しているかです。
この違いは細かい言葉遊びではありません。転職前も満足していた人、新しい会社に満足しているけれど収入は下がった人、転職自体には納得しているけれど現在の部署には不満がある人もいます。現在の満足度だけでは、転職前からどのくらい改善したかまでは分かりません。
- 転職前の満足度との差ではない:同じ人の転職前後を比較した数字ではありません。
- 転職しなかった場合と比べられない:転職したことが満足を生んだという因果関係までは分かりません。
- 成功の定義が人によって違う:年収、仕事内容、時間、家族との生活、健康など、優先順位は一つではありません。
それでも、公的データが役に立たないわけではありません。「転職すれば幸せになれるか」を一つの数字で決めるのではなく、どの条件が、どのくらい変わる可能性があるのかを冷静に見るために使えます。
転職者の53.4%が、現在の職業生活に満足している
厚生労働省「令和2年転職者実態調査」では、現在の職業生活全体について、「満足」「やや満足」と答えた転職者は合計53.4%でした。「不満」「やや不満」は11.4%、「どちらでもない」は34.5%です。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」表22。端数と不明0.7%があるため合計は100%になりません。
満足している人は、不満を持つ人の約4.7倍です。一方で、約3人に1人は「どちらでもない」と答えています。転職は必ず大成功か大失敗になるイベントではなく、改善した点と残った課題が同時にある人も多いと考えたほうが現実的です。
満足度が最も高いのは「仕事内容・職種」
同じ調査を項目別に見ると、仕事内容・職種に「満足」「やや満足」と答えた人は69.2%でした。賃金への満足は46.6%です。また、満足の割合から不満足の割合を引いた満足度D.I.は、仕事内容・職種が60.5ポイントで最も高く、賃金は19.5ポイントで最も低くなっています。
| 現在の勤め先での項目 | 満足 | 不満足 | 満足度D.I. |
|---|---|---|---|
| 仕事内容・職種 | 69.2% | 8.7% | 60.5pt |
| 職業生活全体 | 53.4% | 11.4% | 42.0pt |
| 賃金 | 46.6% | 27.1% | 19.5pt |
言えること:調査対象の転職者は、賃金より仕事内容・職種への満足度が高かった。
言えないこと:年収を下げて仕事内容を選べば満足できる、とは断定できない。どの人の賃金が上がり、同じ人が何に満足したかを示す集計ではないためです。
収入は生活を守る土台です。だから「仕事内容のほうが大切」と単純化する必要はありません。ただ、転職後の納得感を考えるとき、提示年収だけでなく、一日の大半を何に使うのかを同じ重さで確認する価値はあります。
転職後に賃金が増えた人は39.4%、減った人は31.5%
より新しい賃金データとして、厚生労働省「令和7年上半期雇用動向調査」があります。2025年上半期に転職した人のうち、前職より賃金が増えた人は39.4%、減った人は31.5%、変わらない人は25.5%でした。
出典:厚生労働省「令和7年上半期雇用動向調査」表5。賃金変動状況不詳を含むため、3区分の合計は100%になりません。
増加した人のほうが減少した人より7.9ポイント多いものの、年収アップが多数派というわけではありません。反対に、「転職すると年収は下がる」と決まっているわけでもありません。全体平均だけなら、上がる人・維持する人・下がる人のどれも珍しくない、というのが正確な読み方です。
なお、この調査の対象は、前職で雇用され、転職先にも調査時点で在籍している人です。自営業から会社員になった人は含まず、早期に離職した人の状況もこの数字だけでは捉えきれません。「転職した全員の最終結果」ではなく、特定期間の転職入職者を切り取った統計です。
年代別では、50歳前後で賃金変動の形が大きく違う
年代別の数字を見ると、2025年上半期は20〜49歳のすべての年齢層で「増加」が「減少」を上回りました。一方、50歳以上では「減少」が「増加」を上回っています。
| 年齢 | 賃金が増加 | 賃金が減少 | 増加-減少 |
|---|---|---|---|
| 20〜24歳 | 55.5% | 13.1% | +42.4pt |
| 25〜29歳 | 45.9% | 27.2% | +18.7pt |
| 30〜34歳 | 47.0% | 29.5% | +17.5pt |
| 35〜39歳 | 43.2% | 25.2% | +18.0pt |
| 40〜44歳 | 47.7% | 23.5% | +24.2pt |
| 45〜49歳 | 41.1% | 28.1% | +13.0pt |
| 50〜54歳 | 26.5% | 44.7% | -18.2pt |
| 55〜59歳 | 28.9% | 38.7% | -9.8pt |
| 60〜64歳 | 19.5% | 56.3% | -36.8pt |
出典:厚生労働省「令和7年上半期雇用動向調査」表5より、まいんでぃあ編集部が20〜64歳を抜粋。数値は2025年上半期の割合です。
この表は、年齢だけが賃金低下の原因だと示すものではありません。雇用形態、役職、業界、労働時間、定年・再雇用、転職理由などを同じ条件にそろえた比較ではないからです。50代以降は、年収維持を最優先する転職と、時間・勤務地・責任を調整する転職を分けて考える必要があります。
たとえば、管理職から専門職へ移る、長時間労働を減らす、転勤のない会社へ移る、介護と両立できる働き方へ変える場合、賃金が下がっても本人にとっては合理的な選択かもしれません。逆に、住宅費や教育費が大きい時期なら、年収を守ることが譲れない条件になります。
同じ賃金減少でも、望んで交換したのか、想定外に失ったのかで意味は違います。転職前に「何と引き換えなら、いくらまで許容できるか」を決めておくことが重要です。
前職までの知識・スキルを活かせている人は72.2%
JILPT「ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成」では、転職者の26.3%が、これまでに身につけた知識・スキルを「非常に活かせている」、45.9%が「活かせている」と回答しました。合計すると72.2%です。
転職では「まったく新しい自分」になる必要はない
経験職種の中で会社を変える、隣接職種へ移る、同じスキルを別の業界で使う。こうした転職も立派な変化です。これまでの経験を捨てるより、持っているものを、より合う環境へ移すほうが現実的な場合があります。
同研究では、転職先が職場になじむために行った取り組みを多く経験した人ほど、知識・スキルを活かせている傾向も示されています。ただし、これは関連を見た調査であり、受け入れ施策だけがスキル活用を生んだとまでは断定できません。
応募前には、「経験を活かせます」という求人の言葉だけでなく、入社後にどの仕事を任されるのか、最初の3か月に誰が支援するのか、過去の中途入社者がどのように立ち上がったのかまで確認したいところです。
診断だけで転職の成否は決まりませんが、候補企業を比べる軸を作る助けになります。
転職後に後悔しにくくする「5つの比較軸」
公的データを自分の転職へ使うなら、成功を一つの数字で探すのではなく、現職と候補企業を同じ五つの軸で比べます。
年収と生活
基本給、賞与、残業代、手当、退職金を含む年間の見込み額。下限はいくらか。
仕事内容
一週間のうち何に時間を使うか。やりたい作業と避けたい負荷はどのくらいあるか。
時間と休日
残業、通勤、休日対応、在宅勤務。家族・睡眠・回復の時間を確保できるか。
人間関係と評価
上司への相談、意見の違い、仕事量の調整、評価理由。個人の善意だけに頼らないか。
スキルの活用
何を期待され、どこまで経験を使え、新しく何を学ぶか。入社後の支援はあるか。
五つすべてを改善しようとしない
転職で、年収、仕事内容、休日、人間関係、成長のすべてが最大になる会社を探すと、判断できなくなります。そこで、五つの軸を次の三段階に分けます。
今回の転職理由に直結する条件。ここが変わらないなら、転職する意味が薄い。
現職で保てている条件。内定の魅力に隠れて、失うものを見落とさない。
別の改善と交換できる条件。許容できる下限と、交換する理由を決める。
私は今回の転職で、____を必ず改善したい。
その代わり、____は____までなら妥協できる。
ただし、今ある____は悪化させない。
例:仕事内容の裁量は必ず改善したい。その代わり、年収は残業削減と交換で5%までなら下がってもよい。ただし、土日休みは悪化させない。
候補企業は、同じ5項目で並べて調べる
自分の優先順位が決まったら、企業ごとに調べる項目を変えないことが大切です。第一志望だけ良い情報を集め、比較企業には厳しい情報ばかり探すと、最初の印象を確認するだけの企業研究になってしまいます。
| 比較項目 | 求人・企業情報で確認 | 口コミ・選考で確認 |
|---|---|---|
| 年収 | 提示レンジ、固定残業、賞与、評価 | 昇給の実態、評価の納得感 |
| 仕事内容 | 担当業務、顧客、成果指標、裁量 | 一日の流れ、業務比率、想定外の仕事 |
| 時間 | 休日、残業、在宅、転勤 | 制度を実際に使えるか、繁忙期 |
| 人・評価 | 組織図、1on1、評価制度、相談窓口 | 上司の支援、意見の違い、仕事量の調整 |
| スキル | 期待役割、必須経験、研修 | 中途入社者の立ち上がり、キャリア事例 |
企業口コミは事実の保証ではありませんが、面接で確かめる仮説を作るには役立ちます。読み方に迷う場合は、転職口コミを「判断材料」に変える7つの読み方、職場の見えにくい部分まで調べたい場合は、転職前に会社の雰囲気・社風を知る8つの方法も使ってください。
PR・候補企業を同じ軸で比べたい人へ
年収だけでなく、クチコミ、選考体験、仕事内容、キャリア情報を横断すると、「何を面接で確認すべきか」を具体化しやすくなります。まずは気になる二〜三社を保存し、上の五項目を同じ順番で確認してみてください。
次の会社を決める前に、転職体験談と企業のリアルを見るなら ワンキャリア転職
今すぐ転職を決めなくても大丈夫です。気になる企業のクチコミ、年収、キャリアパスを見比べて、自分が次に求める環境を具体化できます。
数字より先に、自分にとっての「よかった」を決める
転職者の53.4%が今の職業生活に満足し、39.4%が賃金を増やし、72.2%が以前のスキルを活かしている。どれも心強い数字です。ただし、その数字は「あなたも転職すべきだ」とは言ってくれません。
公的データが教えてくれるのは、転職の結果には複数の面があることです。収入は上がったけれど時間を失うこともあれば、年収は少し下がっても、仕事内容や家族との時間を取り戻すこともあります。何を得たら「転職してよかった」と言えるかは、自分で決める必要があります。
転職の成功率を探すより、自分の成功条件を先に決める。
必ず改善したいもの、悪化させたくないもの、交換できるものを分けてから、候補企業を同じ五項目で比べてください。その作業が、内定の勢いではなく、自分の生活を基準に選ぶための土台になります。
よくある質問
転職してよかった人は何割ですか?
公的統計には、「転職してよかったか」を直接尋ねた一つの成功率はありません。最も近い厚生労働省の令和2年転職者実態調査では、現在の職業生活に満足・やや満足と答えた転職者が53.4%、不満・やや不満が11.4%、どちらでもないが34.5%でした。これは現職への満足度であり、転職そのものへの評価とは区別が必要です。
転職で年収が上がる人は何割ですか?
厚生労働省の令和7年上半期雇用動向調査では、前職より賃金が増加した転職入職者は39.4%、減少した人は31.5%、変わらない人は25.5%でした。1割以上増えた人は26.7%です。調査時点で在籍している前職雇用者を対象とした割合で、自営業からの転職は含みません。
50代になると転職で年収は下がりますか?
令和7年上半期の集計では、50〜54歳は賃金増加26.5%に対し減少44.7%、55〜59歳は増加28.9%に対し減少38.7%でした。ただし、半年間の集計であり、雇用形態、役職、定年や再雇用などの違いを調整した因果関係ではありません。年齢だけで個人の転職結果が決まるとは言えません。
年収が下がっても転職してよかったと感じることはありますか?
あり得ます。厚生労働省の満足度調査では、仕事内容・職種の満足度D.I.が60.5ポイントで最も高く、賃金は19.5ポイントで最も低い結果でした。ただし、賃金変動と満足度は別の調査・設問なので、年収が下がった人ほど仕事内容に満足したと直接証明するデータではありません。
転職前に何を比較すれば後悔を減らせますか?
年収だけでなく、仕事内容、労働時間・休日、人間関係や評価、これまでのスキルを使えるかの五つを、現職と候補企業で同じ基準にして比較します。絶対に改善したい条件、維持したい条件、妥協できる条件を先に分けると、内定時の勢いだけで判断しにくくなります。
調査資料と、数字を読む際の注意
令和7年上半期雇用動向調査
使用した数字:転職入職者の賃金変動、年代別割合。
注意:前職雇用者で調査時在籍者を対象とし、自営業からの転職は含みません。賃金変動状況不詳を含みます。
令和2年転職者実態調査
使用した数字:現職での職業生活全体、仕事内容・職種、賃金の満足度。
注意:現在の勤め先への満足度であり、転職前後を同じ人について比較した調査ではありません。
JILPT ミドルエイジ層調査
使用した数字:前職までに得た知識・スキルの活用度。
注意:主に30〜54歳の就業者を対象とする調査です。受け入れ施策とスキル活用の関係は、因果関係の証明ではありません。